HOME | 催眠術スクール | 催眠術を脳科学の視点から解説する

催眠術スクール&催眠術カフェ東京|催眠術体験できる場所
   

催眠術を脳科学の視点から解説する

催眠術は本当に脳に影響を与えているのか?
その問いに、今は科学的に「イエス」と答えることができる。
かつては曖昧に扱われていた催眠状態も、現在では脳波、fMRI、脳血流などの手法で客観的に観察されている。
 
まず、催眠状態の大きな特徴は「注意と意識の再編成」である。
つまり、意識の焦点が狭く深くなることで、外部刺激への反応が変化する。
これは単なる心理的傾向ではなく、脳構造そのものの変化として確認されている。
 
とくに注目されているのが、前帯状皮質の活動変化である。
前帯状皮質は、注意の切り替え、感情制御、意図的行動の選択などを司る領域である。
催眠下ではこの領域の活動が変化し、意図的なコントロールよりも外部からの暗示への反応性が高まる。
言い換えれば、「自分で考えて動く」回路よりも、「言われたことに自然に従う」回路が優位になる。
 
さらに、デフォルトモードネットワークの活動抑制も報告されている。
このネットワークは、自己の内省、記憶、過去未来の思考などに関与する。
催眠状態ではこの活動が低下する。
つまり、「今ここに集中する意識状態」が強くなる。
被験者が「夢中で何も考えていなかった」と語るのは、この神経的背景と一致している。
 
脳波的には、α波とθ波の増加が最もよく観察されている。
α波はリラックス状態に、θ波は記憶・感情・創造性に関係する。
この組み合わせは、覚醒と睡眠の中間に近い意識状態を示している。
催眠状態が「浅い眠り」や「覚醒に似た夢見状態」と表現されるのは、科学的に正確である。
 
また、催眠中には感覚野の反応が変化することもある。
たとえば、冷たい水に触れた被験者が「温かい」と暗示された場合、実際に温感に関係する脳部位が活性化する。
これは「思い込み」ではなく、「感覚が脳内で再構成された」状態である。
現実の刺激よりも、言葉が感覚に先行することが起こり得る。
 
このような脳の反応は、意識が操作されているというより、「脳の中での解釈の枠組みが変わっている」というのが正確である。
催眠とは、言葉によって脳の情報処理ルートを変える技術である。
 
重要なのは、催眠状態は「無意識にされる」のではなく、「自らの脳が選んでいる」という点である。
意識的に集中した結果、脳が自己修飾モードに入る。
つまり、催眠術とは他人にコントロールされる状態ではなく、自分の脳が“別の設定”で動く状態なのである。
 
現場で活かすなら、この脳科学の理解は次のように応用できる。
 
被験者が「イメージしづらい」と感じている場合、それは言語処理中心の左脳が優位に働いている可能性がある。
その場合、より感覚的な誘導やリズム、呼吸の同調を先に使うことで、右脳優位状態を引き出しやすくなる。
 
また、トランスに入ったかどうかの基準を「反応」だけで測らず、「DMNの低下=雑念の消失」を想定すると、話しかけたときに返答が一瞬遅れるなどの兆候も評価基準になる。
 
つまり、催眠とは「見た目でかかっているかどうかを判断する」ものではない。
脳内で“どのネットワークが優位か”を見ることで、誘導の深さや方向を把握することが可能になる。
 
催眠術は脳科学に支えられている。
もはやそれは、「かかったかどうか」ではなく、「どのように脳が変化しているか」の話である。
 
プロの催眠術師にとって、この事実は技術の裏付けであり、施術の責任でもある。